犬と暮らしている人にとって、突然の入院はとても大きな不安です。
「入院中、愛犬の世話はどうしたらいいのだろう」
「この子をひとりにしてしまって大丈夫だろうか」
「預け先が見つからなかったら、入院そのものをためらってしまうかもしれない」
愛犬を家族のように大切にしている飼い主さんほど、この不安は決して小さくないはずです。
こうした課題に向き合う形で、岐阜県羽島郡笠松町の松波総合病院では、2025年4月に日本初となる病院附設の「ペットおあずかりセンター(Your pet in hospital)」を開設しました。
さらに、連携する海津市医師会病院では「ペットと一緒に入院できる病棟(With Pet Ward)」を整備。飼い主が入院中も愛犬とつながりを持ちながら治療を受けられる、全国的にも非常に珍しい取り組みが始まっています。
そして今回、この取り組みがNHKのミニドキュメンタリー『ずっといっしょにいようね』で紹介されました。
筆者も2026年5月24日にNHK Eテレで再放送された番組を視聴しましたが、映像を通して伝わってきたのは、単なる「ペットを預かるサービス」ではなく、患者さんと愛犬の気持ちに寄り添う、あたたかい医療の形でした。
ペットおあずかりセンターとは?

入院中の飼い主を支える仕組み

松波総合病院の「ペットおあずかりセンター」は、入院する患者さんの愛犬を病院敷地内で預かる施設です。
飼い主さんは、医師の許可を得たうえでセンター内の面会室で愛犬と触れ合うことができ、体調や治療状況に応じて、病院の敷地内で一緒に過ごす時間を持つこともできます。

入院中に愛犬の存在を近くに感じられることは、飼い主さんにとって大きな心の支えになります。また、愛犬にとっても、大好きな飼い主さんの近くで過ごせることは大きな安心につながるはずです。
愛玩動物看護師が支える安心の体制
この取り組みの大きな特徴のひとつが、国家資格である「愛玩動物看護師」を持つ専門スタッフが関わっている点です。
日々の食事や散歩、体調管理だけでなく、入院中の患者さんと愛犬の気持ちの橋渡しをするような、きめ細やかな対応が行われています。
NHKの番組内でも、愛玩動物看護師さんが患者さんと愛犬の双方に丁寧に向き合う姿が紹介されていました。
特に印象的だったのは、患者さんが抗がん剤治療の関係で愛犬と直接会えない時期にも、愛犬の様子を日記のように書き留め、患者さんへ伝えていた場面です。
ただ預かるだけではなく、
「今日はこんな様子でした」
「元気に過ごしています」
「施設の環境にも慣れてきました」など
そんな日々の様子を伝えることで、患者さんの不安を少しでも和らげようとしている姿に、深く感銘を受けました。
- 愛玩動物看護師や動物好きのスタッフが日常の世話を担当
- 獣医師免許を持つ医師も常勤しており、医療面からも安心
- 清潔で安全な飼育環境を提供
これにより、飼い主である患者さんは入院中も愛犬とつながりを感じながら治療に専念できます。また愛犬にとっても大好きな飼い主が近くにいることは大変嬉しいことです。
ペットと一緒に入院できる病棟
海津市医師会病院との連携

松波総合病院で急性期治療や評価を終えた患者さんは、連携する海津市医師会病院へ転院し、愛犬と同じ病室で療養生活を続けることができます。
一般的な入院生活では、ペットと離れて過ごさなければならないケースがほとんどです。
しかし、愛犬と同じ空間で過ごせることで、患者さんは治療中も精神的な支えを得ることができます。
愛犬にとっても、慣れない環境であっても飼い主さんのそばにいられることは、何よりの安心材料になるのではないでしょうか。
なお、松波総合病院では、必ずしも海津市医師会病院へ転院する方だけを受け入れている訳ではありませんが、海津市医師会病院へ直接入院することは出来ませんのでご注意ください。
犬に配慮された環境づくり

海津市医師会病院では、犬の飼育環境にも配慮されており、敷地内にはドッグランも整備されています。
芝やウッドチップを使った犬にやさしい空間づくりが行われており、単に「同じ部屋にいられる」だけではなく、犬の生活にも目を向けた環境が用意されています。
人の医療機関でありながら、犬の安心や快適さにも配慮している点は、とても画期的だと感じます。
- 440㎡のドッグパーク(ドッグラン)を整備
- 芝とウッドチップを敷き、犬の足腰にやさしい設計
- 飼い主と犬が安心して過ごせる居住空間
これにより、愛犬と共に療養生活を送りながら心身の回復を目指すことができます。
なぜこの取り組みが必要なのか?

ペットと暮らす人にとって、愛犬は単なる「飼っている動物」ではありません。
日々をともに過ごす家族であり、かけがえのない存在です。
そのため、自分自身が急に入院しなければならなくなった時、まず頭に浮かぶのは「自分の体のこと」だけではなく、「この子はどうなるのか」という不安ではないでしょうか。
特に一人暮らしの方や高齢の飼い主さんにとって、愛犬の預け先をすぐに見つけることは簡単ではありません。その結果、受診や入院をためらってしまうケースもあるかもしれません。
コロナ禍では「ペットの世話ができないから」という理由で入院を拒み、自宅療養を選んだ結果、命を落とすケースがありました。悲しい事例ではありますが、犬は大切な家族の一員です。愛犬家の皆様には、自宅療養を選択してしまう理由が少なからず理解できるのではないでしょうか。
松波総合病院の取り組みは、こうした「ペットがいるから医療を受けづらい」という問題に対して、真正面から向き合ったものです。「愛犬の存在が医療を受ける障壁になってはいけない」という理念のもと、入院から退院まで愛犬と一緒に過ごすことを可能にしました。
医療を受けることと、愛犬を大切にすること。
そのどちらかを諦めるのではなく、両方を守ろうとする姿勢に、この取り組みの大きな意義があると感じます。
NHK『ずっといっしょにいようね』を見て感じたこと
今回、NHKのミニドキュメンタリー『ずっといっしょにいようね』では、実際に愛犬と一緒に入院している患者さんや、以前に愛犬と入院していた患者さんへのインタビュー、そしてこの取り組みを支える愛玩動物看護師さんの日々の奮闘が紹介されていました。
映像を見て特に強く感じたのは、患者さんが「愛犬と一緒に入院できること」に対して、本当にありがたみを感じているということです。
言葉だけではなく、表情や声のトーン、愛犬を見つめるまなざしから、愛犬がそばにいることの大きさが伝わってきました。
そして、愛犬のほうもまた、大好きな飼い主さんの近くで過ごせることをうれしく感じているように見えました。
病院という場所は、人にとっても犬にとっても、決して慣れた環境ではありません。
それでも、飼い主さんと愛犬が同じ時間を過ごせることには、何ものにも代えがたい意味があるのだと思います。
愛犬と最期まで一緒にいられる幸せ
番組内でインタビューを受けていた患者さんは、残念ながらその後亡くなられたとのことでした。
とても胸が締めつけられる内容でしたが、同時に、最期まで愛犬のそばにいられたことは、その方にとって大きな幸せだったのではないかと感じました。
もちろん、病気や別れはつらいものです。
それでも、大切な家族である愛犬と離れずに過ごせた時間は、患者さんにとっても、愛犬にとっても、かけがえのないものだったはずです。
また、その愛犬は病院の支援もあり、新しい家族のもとへ迎えられたとのことでした。
飼い主さんと過ごした時間を胸に、これからの第2の犬生もどうか幸せであってほしい。
番組を見ながら、自然とそう願わずにはいられませんでした。
同じ5歳の黒柴と暮らす飼い主として

筆者自身も、番組に登場した愛犬と同じ5歳の黒柴と暮らしています。
だからこそ、番組を見ている間、患者さんの気持ちにも、愛犬の気持ちにも、自然と感情移入してしまいました。
もし自分が突然入院することになったら。
もし愛犬と離れて過ごさなければならなくなったら。
もし自分の治療中も、愛犬が近くで待っていてくれたら。
そう考えると、この取り組みがどれほど心強いものか、より現実感を持って感じられました。
愛犬と暮らす人にとって、犬は日常そのものです。
朝起きた時にそばにいること。
ごはんを待っていること。
散歩に行くこと。
何気ない毎日の中に、愛犬の存在があります。
その日常が突然途切れてしまう不安を、少しでも減らしてくれる取り組みがあることは、本当に大きな意味を持つと思います。
簡単ではないからこそ、広がってほしい取り組み
もちろん、ペットと一緒に入院できる環境を整えることは、決して簡単なことではないはずです。
衛生管理、動物の安全管理、患者さんの治療環境、他の入院患者さんへの配慮、スタッフの負担など、乗り越えなければならない課題は多いと思います。
特に、愛玩動物看護師さんをはじめとした専門スタッフの存在や、病院全体の理解と協力がなければ成り立たない取り組みでしょう。
それでも、愛犬と一緒に入院したい、入院中も愛犬のそばで過ごしたいと思う人は、きっとたくさんいるはずです。
ペットを家族として大切にする人が増えている今、こうした医療の形は、これからますます必要とされていくのではないでしょうか。
現在の対象と今後への期待

現在、松波総合病院の「ペットおあずかりセンター」および海津市医師会病院の「ペットと一緒に入院できる病棟」の受け入れ対象は犬のみとなります。
今後、同様の取り組みが全国の医療機関へ広がっていけば、より多くの飼い主さんと愛犬が、安心して医療を受けられるようになるかもしれません。
もちろん、すべての病院で同じ仕組みをすぐに導入することは難しいと思います。
それでも、今回の松波総合病院の取り組みは、これからの医療とペット共生社会を考えるうえで、とても大きな一歩だと感じます。
まとめ|愛犬と飼い主に寄り添う医療が、もっと当たり前になる未来へ

松波総合病院の「ペットおあずかりセンター」と、海津市医師会病院の「ペットと一緒に入院できる病棟」は、愛犬と飼い主の絆に寄り添う新しい医療の形です。
入院中も愛犬とつながれること。
愛犬の存在が治療の妨げではなく、心の支えになること。
そして、飼い主と愛犬が最期の時間まで一緒にいられる可能性があること。
今回、NHKの番組を通してその現場を見て、改めてこの取り組みの大切さを感じました。
犬と暮らす人にとって、愛犬は家族です。
だからこそ、病気や入院という不安な場面でも、愛犬とのつながりを守れる選択肢があることは、とても大きな希望になります。
この取り組みが日本中に広がり、いつか「愛犬と一緒に医療を受ける」という選択肢が、もっと当たり前になることを心から願っています。
詳しくは松波総合病院の公式サイト「ペットおあずかりセンター」をご確認ください。

詳細については、下記より松波総合病院の公式サイトの「ペットおあずかりセンター」をご確認ください。

